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最後にひと仕事 トルコ映画祭⑦(2009/12/9)

いよいよトルコ最終日の朝。この日は、電話で目が覚めました。グランド・バザールで会った日本人の多恵美さんが、私のホテルの部屋に電話をかけてきてくれたのです。お昼ごはんでもどうかというお誘いだったのですが、あいにくお昼前に空港へ向けて出発しなければならなかったので、「日本で再会しよう」ということになりました。

今日は早く起きれたので、ホテルの朝食を食べに行きました。結局このホテルに6泊したのですが、朝食を食べれたのはたったの2回coldsweats01。このホテルのパンは美味しいのに、とても残念でした。

朝食はビュッフェ形式で、席は特に決まっていません。私は自分が食べたいものを取り、窓際の2人掛けテーブルに一人で座って朝食を取っていました。すると、オランダ人映画ジャーナリストのピーターが「ここに座っても良いか?」と言ってやって来ました。私は「もちろん」と言って、一緒に食べることにしました。映画祭は、ほぼ毎晩ディナーを開催してゲストをもてなしてくれるのですが、私は別行動で遊びに出かけることが多く、ピーターと顔を合わせるのがずいぶん久しぶりな気がしました。

彼は、ジャーナリストの傍ら、オランダのアムステルダム映画祭のプログラミングにも、アドバイザーとして関わっているそうです。ピーターは私の作品を観ていませんが、どうやってトルコの映画祭で上映されることになったのか、これまでどこの映画祭で上映されたのか、反応は、劇場公開は、など聞かれました。

アムステルダム映画祭には、昨年は2800本の応募があり、その中から300本の映画が選ばれて上映されたそうです。世界中の映画を観て回るピーターは、「アジアのドキュメンタリーには優れたものが多いのに、ヨーロッパの映画祭でほとんど上映されないのがおかしい」と言っていました。特に、中国のインディペンデント作品が素晴らしいと言っていました。キュレーターたちに、「なぜアジアの作品を選ばないんだ?」と聞くと、彼らは「アジアの作品はストーリー展開が遅いから」とか「退屈だから」などと答えるそうです。

ピーターは自分が見つけた中国のドキュメンタリーを映画祭で上映させて、結果としてそれはグランプリを受賞したそうです。彼はもっとアジアの映画を探したいと思っているのですが、海外のマーケットに出回る量が圧倒的に少ないので、情報を得るのが困難だと言いました。

長年映画に携わってきた彼は、映画を作る側も、選ぶ側も、「映画」を分かっていない人が多すぎる、と嘆いていました。特にドキュメンタリー作家に対して思うことは、映画をほとんど観ないし、知らない人が多く、それが問題と言っていました(←他の人は分かりませんが、私自身は確かにその通りです・・・)。「”面白い題材”と”面白い映画”は違う。どちらも大切な要素だけれど、これらは別物。題材自身も面白くならなければいけないし、かつ、映画としても成立し、面白くなければならない。”映画”を学ぶためには、作り手自身がもっと映画を沢山観るべきだ」、彼はそう主張していました。

そして、彼は「君のDVDはいつくれるんだ?」と突然聞きました。初めてピーターと会った飲み会の席で「私のDVDも観てほしい」と一度だけ言った約束を、彼はちゃんと覚えていたのです! 「映画祭のディナーにもあまり参加しなかっただろう? 昨日、Prison No5の会場であなたを見かけたけど、途中で出て行ってしまったし」と言われて驚いてしまいました。満員の薄暗い会場の中で、誰かに見られていたとは全く予想していませんでしたから! 

ピーターは「国際映画祭に来たら、他の映画祭のディレクターとか、ジャーナリストとか、配給会社を見つけて、DVDを配るの。それで自分の映画を見てもらうこと。それがあなたの仕事なんだよ。あなたは最後の日にやっと仕事をした」と言われ、ハッとしました。トルコで沢山の友人が出来たことで十分満足していましたが、国際映画祭のためにやってきたのだから、「観光」や「友達&思い出作り」で楽しかった~、では終わらせてはいけないのです。

朝食後にピーターにDVDを渡し、部屋で荷造りをしました。お土産も沢山買い、大量のオリーブとレーズンももらったので、かばんはかなり重くなっていました。チェックアウトをし、空港行きの「ハワシュ」という乗り合いバスの停留所へ向かいます。

ハワシュ
Dsc06811
道路もすいていて、余裕を持って空港に着きました。チェックインをして、機内に乗り込みます。飛行機は行き同様、フランクフルトでの乗り換え。フランクフルトまでの便はトルコ航空でした。トルコ航空の機内誌「Skylife」を何気なく手に取り、読み始めました。2010年のEuropean Capital of Culture(ヨーロッパの文化の首都)にイスタンブールが選ばれたという記事と、イスタンブールは世界の新たなファッションの中心地になれるのか?という記事が、今のトルコの状況と意気込みを象徴するかのようで、興味深い記事でした。

European Capital of Culture(以下、ECC)とは、EUより指名された都市が1年間、文化の都としてさまざまな催しを開催する制度のことです。ECCに指定されたことをキッカケに、文化施設を整え、アーティストを育成し、その後文化の発信地として世界的に認められるようになった都市も多いと言われています。

ECCについてのウィキペディアはこちら(英語)
http://en.wikipedia.org/wiki/European_Capital_of_Culture

2010年のECCにイスタンブールが選ばれたということは、EU入りを熱望するトルコにとって、ヨーロッパ並みの文化水準を持っていることをアピールする、またとない機会です。記事は、これを成功させることが出来るのか、いや、絶対成功させなければならない! 私たちの成功を伝説として後世に伝えるのだ! という悲壮感にも満ちた言葉で溢れていました。

記事では、これまでに開催されたヨーロッパの各都市のECCディレクターたちにコメントを求め、どうやって成功させたのかを紹介しています。また、1年という長期間に及ぶイベントを、多数の関係者、会場、来場者などをオーガナイズする力をどうやって育成していくべきかも論じられていました。「成功するかどうかに関わらず、ECCを開催する経験によって、私たちがプロジェクトを準備し、オーガナイズする力を学べることは、貴重な収穫だ」と言いつつも、「ECCをやり遂げることは、トルコのEU加入の議論にとっても非常に重要」と本音も覗かせています。

もう一つの記事、ファッションもECCに関連した記事でした。文章は「2010年のECCに選ばれたのだから、世界の、特にヨーロッパの目が私たちに向けられる」という出だしで始まっていました。イスタンブールは、NYやロンドン、ミラノ、パリといった世界のファッション都市の仲間入りを出来るのか?という問題が投げかけられていましたが、前述のECCの記事とは異なり、その分析はかなり手厳しいものでした。

「まず、私たちは”何”が世界のファッション都市を作るのかを理解しなければならない」とし、「私たちトルコに欠けている要素は何か?」と自問します。「イスタンブールは都市として刺激に満ちているし、デザイナーのセンスも優れている。しかし、デザイナーたちが望むような反応が返ってこないのが問題だ」、と指摘します。「世界のファッション都市は、もっと力強いメディアのサポートがあるし、バイヤーや消費者もそれを支持している」、とも。そして、「この状況が変わらない限り、イスタンブールが世界のファッション都市の仲間入りをすることはないだろう」と結論付けていました。

これら二つの記事を読んで、私はこの魅力的な街・イスタンブールが、”ヨーロッパ”になることを目指して、平凡な欧州の一都市のようになってほしくない、そう思いました。アジア、中近東、ヨーロッパの中継地点として、多様な歴史と文化をもつ都市。その多様性を、大資本にのっとられた世界的なブランドによって奪われてほしくない。EUに加入することが、近代都市国家としての水準の高さを示すこととは限らない・・・そう思うのですが、EU加入による経済的な効果、域内の自由な人の移動など、加入を望む声のほうが多いのでしょう。

名実共にEUの仲間入りを果たしたいトルコ。文化水準の高い、近代都市国家となれるのでしょうか? 2010年はまさにその試金石となる年です。文化活動が活発になり、沢山のアーティストが切磋琢磨して、新しいものを生み出していくのはとても良いことです。しかし一方で、トルコには未だ公には語れない、80年代の軍事政権、言論弾圧の過去をも持っています。民族差別の問題もあります。こういったことが自由に語られるようになってこそ、真の近代化であり、成熟した民主国家と言えるでしょう。(先進国とか民主国家と言われている国々でも、それらが実践されているかと言うとビミョウですが・・・)。

2010年のECCで、トルコ人アーティストが強烈な自国の歴史批判の展示とかやってくれたら、すごく面白いのにな~と個人的には期待しています。それぐらい受け止める度量があって欲しいですねhappy01 ぜひ、強烈なパンチをかましていただきたいと思います!

そんなことを考えた、空の旅でした。

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以上で、トルコの映画祭レポートは終わりです。すごいボリュームで、自分でもびっくりです。全て読んでくれた人がいるのかどうか分かりませんが、もしいたとしたらありがとうございます!! 読後の感想・コメントなど、是非お寄せください。どうもありがとうございました!

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コメント

早川監督、こんにちは
ずいぶん前の記事ですが、私がもうすぐトルコに行くので、じっくり読ませて頂きました。
観光で行かれた人のトルコ旅行記と違って、トルコの学生さんなどの考え方がわかって、とてもおもしろかったです。
最後に早川監督も書かれていましたが、トルコがヨーロッパ化されていくのは、時代の流れなのかもしれませんが、残念です。
去年行ったときには、ヨーロッパの経済危機を見て、トルコ人もEU加盟を望まない人たちが半分くらいまで増えてきたと聞きました。今は、もっと増えているかもしれませんね。
他国から勝手なことを言うようですが、是非トルコには、あの混沌として、魅力的な社会を壊さないでいってほしいものだなあと思いました。

投稿: 斉藤敦子(明星、社会講座の会) | 2012年8月31日 (金) 14時53分

斉藤さん

こんにちは! トルコのレポートを読んでくださって、ありがとうございました。(お疲れ様でした、の方が正しいかもcoldsweats01

トルコ、近々行かれるのですか。楽しみですね。私が行ったのはもう3年近く前になるので、また街の姿は変わっているでしょうね。

お土産話を楽しみにしていますhappy01

投稿: yumiko | 2012年9月 2日 (日) 22時48分

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