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[jp] 「さようならUR」、嶋田邦雄さんのレビュー

6月23日からの、シネ・ヌーヴォX(大阪)劇場公開に向けて、5月23日と24日はプレス試写が開催されました。その試写で「さようならUR」をご覧頂いた、ジャーナリスト・嶋田邦雄さんが映画について詳細なレビューを書いてくださったので、ここにご紹介します!
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 「さようならUR」の印象を、帰ってから、また繰り返し思い浮かべてみました。やはり本当に素晴らしい内容だと再確認しました。いわゆるドキュメンタリー・フィルムとは根本から違う。何処が違うんだろうと考えました。一貫してUR住宅に入居している人の目線に基礎を置いているのですが、そのURを取り巻く情況を客観的に見つめる視線も失わない。その二つのヴェクトルの交差、あるいは共存の中から、これまでのドキュメンタリーにありがちだった情緒的、あるいは無機的な“教えてやる”式のレポート様式のパターンから完全に脱却することに成功しています。

 インタビューだけでなく、ナレーションも早川由美子監督が担当していることも一つの要因ではないか、と思います。プロのアナウンサーが担当する場合はある意味で中立的な客観性を作り出すことができるでしょう。あるいは俳優が語りを受け持つと、登場人物の内面にシンクロナイズした背景を作り出せるでしょう。しかし、そのどちらとも、結果的には製作者の“教えてやる”的姿勢へと観客を誘導する要因になります。素人的な声をそのままぶつける監督の語りが、実はその両方の欠ける点を補う役割を果たしていたのではないでしょうか。

 それが最も効果的に表れたのが中央大学大学院の教授へのインタビューです。教授は実に理路整然とURを取り巻く現実を解析し、その結論として「民営化以外に解決の道はない」と言います。しかし、インタビュアーは「でも入居者は民営化で不利な立場に追い込まれるのでは」と素朴な質問を投げかけます。教授は言います。「そうです。家賃は上がる。追い出しやすくなります」――彼の言う“民営化”の正体がいわゆる市場原理主義そのものであり、強者が弱者を食いつくし踏み潰してゆく姿を“解決策”として説いていることが引き出されました。“話の分かる”ジャーナリストだったら、悪意でなくても教授の説く“合理的解決策”の論理に乗ってしまい、素人的質問を出すのを憚るかも知れません。しかし、教授の言う“合理”“論理”は重要な点をあえて排除した上に成り立っている(教授自身、それを知っているはずですが)。自分で家を作ったり、買ったりすることのできない人たち、また、自分が今住んでいるところを故郷と感じている人の“人間としての実存在”を排除している。極端に言えば、金のない人は人間ではないのです。

 
 国家の財政をURに毎年、「兆」単位で注ぎ込んでいるという。しかし、税金は本来、そのような民衆の民生、福祉にこそ投入すべきであってそれを正すのだったら、天下りや、官僚システムそれ自体の中に作り出される“白蟻”構造にこそメスを入れるべきです。

 早川さんのインタビューは今国家単位で行われている「年金」「医療」「福祉」への国家予算投入の削減の意味をも併せて考えることをさそいます。学者へのインタビューはこの教授だけでなく、建築学者も登場させましたよね。住民がやっと手に入れた高幡台団地73号棟の設計書類を検証して「もちろん耐震補強をしなくてはならない。しかし、上層部をカットするなどすればずっと安く改造する道もある」と居住者の立場に立った提案をしています。「学者」の立ち位置によって事態へのアプローチも大きく違ってくることも映像化しています。

 さらに、決定的とも言えるのは最後のUR理事長への歩きながらのインタビューです。表面的には紳士的に答える理事長もその答えの内容はいわゆる官僚的逃げ口上でした。肝心な点を突かれると「正式な取材ではないからお答えする必要はありません」。

 それに対し早川さんの「何度もインタビューを申し込んでいるのに対応してもらえないのはなぜですか?」――このシーンはかつて新聞社に籍を置いた私にとって、痛い、痛いシーンです。新聞社あるいはテレビ局などでしたら取材は受け入れられ、応接室でのインタビューにも応じてもらえたことでしょう。しかし、その場合、多くは“話の分かる”対談しか表に出せないでしょう。肝心なところではミニコミなどを排除してきた(している)この国のジャーナリズムがツケを払わなくてはならない時点へ来ているのだという衝撃を受けました。

 私自身、かつてやっと抽選に当たって大阪・枚方市の香里団地に入ったことがあります。それまでのボロ木賃アパートに比べてなんと違っていたことか。いい点も悪い点も含めて。酔っぱらって帰り着く時など、巨大なコンクリートの機械の中に飲み込まれるような言い知れぬ恐ろしさに襲われる反面、そこをいつの間にか故郷と感じている自分にも気づき、不思議な気分になったものでした。

 転勤で公団住宅住まいは卒業しましたが、その経験が映画「さよならUR」により大きな親近感を与えたのかもしれません。

 とにかく新しい可能性を秘めた映画と言っても決して誇張ではないと思います。ありがとうございました。

 2012年5月24日   嶋田邦雄
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私は6月23日の公開にあわせて大阪に行くので、先日の試写へは行けなかったのですが、でも、試写でご覧になった方からこのような反響を頂いて、とてもうれしいです。どうもありがとうございました!

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