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[jp] 「プータロー」の正確な意味?

日曜日は、韓国のクリスチャン系のラジオ局、CBSの取材を受けました。CBSは韓国の民主化にも貢献したラジオ局だそうで、社会問題の報道に定評があり、今回は来たる韓国大統領選のために、日本の社会問題を取材し、大統領候補に政策提言をするための番組を制作しているそうです。数日間の日程で、東京、大阪、南三陸などを取材し、日本で社会運動に携わる人たち、実際に貧困や福祉の問題で当事者になっている人たちに話を聞くとかで、私にも声を掛けていただきました。

事前に通訳の方に「さようならUR」のDVDを送り、映画を観てもらいました。その上で、日曜日に高幡不動駅で待ち合わせし、73号棟住民の会・村田さんのお宅へ、CBSのプロデューサー、通訳のイ・ヨンチェさん(恵泉女子大の先生)、先生の教え子の女子大生とともにお邪魔しました。

イさんは、村田さんに会うなり「映画で見るよりずっとお若くて、ハンサムですね!」と言いました。これと全く同じ言葉、15分前にイさんは高幡不動駅で待ち合わせした私にも言ったんですけど・・・!!! もしかしてイさんの営業トークでしょうか?

プロデューサーは、訪日は3度目ですが、日本人の家庭を訪問するのは初めてだそうで、典型的な日本の「団地」である村田さんの家庭を珍しそうに眺め、あれこれ写真を撮っていました。
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同行した女子大生も、「うわっ、昭和の香りがする。うち、こういう色の家具ないし!」と言っていました。昭和と平成の違いは「色」なのか・・・? 女子大生の発言に、ちょっとびっくり。でもそういえば、いまどきのデパートではこういう「色」の家具は売られていません。(売られているとしたら「人間国宝の家具職人による手仕事・実演販売」みたいな家具でしか、お目にかかれないでしょう)

これは「昭和」の色・・・?
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お菓子を載せるお盆やおしぼり置き。こういうアイテムもやはり「昭和」なのか・・・
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挨拶の後、早速インタビュー開始。村田さんご夫婦が結婚してからの住まい、73号棟に入るまで、ここでの生活、立ち退きのこと、なぜここに住み続けているのか・・・etc、質問が続きました。彼女の質問を聞いていて、ことばの違いはあるものの、質問の内容が日本人に比べてかなりストレートだなと感じました。日本人同士だったらちょっと聞きにくいようなこと(当時の給料や現在の年金の受給額など)も聞いているのが印象的でした。

インタビューの様子
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ラジオ取材なので、ICレコーダーとマイクで取材をしているわけですが、性能が良さそうな彼女の機材に興味津々。
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日本に暮らし始めて15年のイ・ヨンチェさんの通訳は、日韓の社会運動に精通しているだけあり、素晴らしいものでした。

イさんのメモ書き。通訳の人によるかもしれませんが、イさんの場合は、村田さんのお話を日本語で聞きながらもメモ書きは全て韓国語。メモする時点で既に韓国語に翻訳しているわけです。
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この73号棟の立ち退き問題に対して、ひとしきりの質問があった後、プロデューサーがいまいち理解が出来ないのが、「URの対応のよさ」でした。以前、中国の雲南省で上映した時に、中国の追出しのすさまじさについて知りましたが、韓国でも同様とのことでした。建物の取り壊しを決めて、住民を追出すときには、立ち退き金や引越し金はほとんど支払わず、他の物件の斡旋もしない、立ち退きを拒否して住み続ける住民がいても、電気や水道は止め、建物を壊し始める・・・。日本は恵まれているのではないか?ということでした。

それに対しては、引越し金なんて全く十分な金額ではないこと、引越しで新しい土地に行くことにより、これまでのコミュニティや人間関係が破壊されてしまうこと、高齢者の場合は引越しで環境が変わることにより病気になったり、痴呆になったりする場合があること、これまでの家賃と変わらない場所へ移転したい場合は、とても古い建物だったり、交通の便が悪いような所しかない、エレベーターの付いていない場所への移転もあるetcを説明しました。

中国や韓国の状況からみれば日本はマシ、と言われるかもしれませんが、追出しのやり方があからさま・暴力的であるかの違いだけで、住まいが国家や大企業の都合によって奪われる、住まいが安定していないという点では全く同じです。そして、この日本の状況も人権の考えがより成熟した国から見れば、ヒドイ状態であると思います。

インタビューの7割ほどは村田さんで、3割ほどは私に対してでした。この73号棟の立ち退き問題について、取材者という立場から、村田さんの答えに補足的に付け加えたり、また、私自身の生活や社会に対して思うことなどを話しました。

どうしてこの問題に興味を持ち、映画を撮り始めたか、という質問をされたとき、私は「自分はプータローで、居候生活をしながら映画を作っているため、家賃のかからない暮らし方というのに興味を持っていた。それで住宅をテーマに映画を作って見たいと思った」などと答えました。

日本での生活が15年のイさんですが、「プータローとはなんですか? どんな字を書きますか?」と聞かれました。

・・・プータローを説明しろって言われても・・・

初めてのことに、私は戸惑いました。仕事をしていない人、定職についていない人・・・う~ん、でも、なんか響きが違うよなぁ・・・

女子大生がネットで検索すると、ウィキペディアのページを見つけました。

「就労可能な年齢等にありながら無職でいるものの俗称である。「プー」 などとも略す。「プー太郎」と表記されることもある。特に女性に対しては「プー子」と表記することもある。」

とのこと。え・・・そうなの・・・? あわてて村田さんが「え、それは違うでしょ」と言ったのですが、プータローの説明が難しい!

「ニートとは違うんですよね?」とイさんに言われたのですが、ニートとも違うと思う。フリーターとも違う。フリーターは正社員じゃなくて、アルバイトそしている人なんだから、仕事(賃労働)をしています。

フリーランスのジャーナリストたちの飲み会に参加すると、自虐的に「プータローです」と自己紹介する人も多く、私もそういうノリで使っているのですが、日本人同士だったら説明はする必要がないと思いますが、あえてプータローを説明するとしたら、どうなるのか?!

私自身は、生活の中で「ドキュメンタリーを作る」というのが第一で、それは職業かと問われれば、「職業」=「ビジネス」=「賃労働・それでお金を稼いでいる」という価値観の人からの問いであれば、「NO」になると思います。

ドキュメンタリーを作りつつも、お金を稼ぐには、マスメディアで働いてドキュメンタリーを作るのが一般的かもしれませんが、でも、マスメディアで働いたら、「社会問題を伝えたい」というモチベーションから、一番かけ離れたことばかりやらされそうだし・・・。

そういうわけで、就職はせず、ドキュメンタリーを作り、それを上映したり販売したりして少しでも費用を回収する・・・という現在の状況になってしまうのです。強く望んでそうしているというよりは、そうせざるを得ないからそうしている、というだけのこと。

以上の理由から「プータロー」をしているのですが、それがCBSのプロデューサーに伝わったかどうか。まぁ、韓国のマスメディアは、例の大規模ストライキにみられるように、日本よりもずっと健全ですからね。なかなか理解しがたいことかもしれません。

ツイッターでこれをつぶやいたら、ある人から「韓国にはプータローがいないということ?」という質問を頂いたのですが、私はプータローという存在は、ずっと昔から世界中にあると思っています。ただ、それを指す固有名詞がわざわざあるのが日本なのでは?と。イさんにも、詳しくプータロー状態を説明して、さらに「メディア・アクティビストのドヨンみたいな感じで生きている人とか」と説明したら、プータロー像が想像できたようでした。

それにしても、「プータロー」でこんなに盛り上がるとは、想像していませんでした!

でも、つくづく日本語って便利だなぁと思うのが、この命名の上手さ。世間にはあまり歓迎されないようなネガティブな事象に限って、朗らかな名前が付けられていることが良くあります。例えば、愛煙家とか、居候、そしてプータロー。

「お仕事は?」と聞かれて「無職です」と答えたら、ずいぶん暗い雰囲気になり、聞いたほうも(聞いちゃまずかったかな?)、とか(病気で失職したのか?)とか、あれこれ考えてしまうかもしれません。でも、「プータローです」と答えると、なんとかこの人は生きていっているんだな、とか、ずいぶんお気楽に生きているんだな、とか、軽く受け止めると思うのです。

もしかして人間関係を円滑にするための言葉なのかもしれません!!!

その後、インタビューでは、日本の高齢化や孤独死などの話題にも及びました。主に村田さんが回答をしましたが、私も、私世代の立場から「今の高齢者たちは貯金もあるし、年金額も高いから、まだ恵まれている。でも、私たちの世代は貯金もなく、年金もほとんどもらえないと予想されている。問題はこれからだ」と答えました。だって、本当にそうだと思いますから。

約2時間のインタビューが無事終わり、記念写真を撮りました。
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私はソウルで4回取材を受けましたが、村田さんは海外メディアの取材が初めての体験でした。初の海外取材について色々と思うことがあったようです。帰りの車の中で、日本人同士では必要ない大前提についても、海外の人にはそこから説明しなければ分かりにくいだろうと話していました。特に、追出しに対する日韓の違いについては、日本は借地借家法で守られているところが大きい(改正によりだいぶ権利は後退していますが、それでもなお)と言っていました。

海外の人に取材してもらうというのは、普段と違う発見があって面白いですね

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