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[jp] イギリスのインディペンデントに希望の光?

先週まで忙しく、今週から少し余裕が出来たので、前から観たいと思っていたDVDをやっと観ることができました。

「さようならUR」が完成したばかりの頃、英語字幕を担当してくれたイギリスのポールが、「同じような映画が、今イギリスで話題になっている」と教えてくれました。「You've been trumped」という作品です。アメリカの大富豪、ドナルド・トランプが、スコットランドのアバディーンに豪華なゴルフコース+巨大リゾートを建設するという計画を発表。その地域で長年暮らす地元の住民たちが、その計画に反対し、土地の強制収用から自分たちの土地を守る様子を、一人のインディペンデント・ドキュメンタリー監督が追った映画です。

私がイギリスでブライアンたちの活動を撮影していた頃、インディペンデントで映像を作っているという人たちは、何人も会いました。でも、みんな他の仕事(映像関係だったり、全く違う分野だったり)をしながら、社会活動(使命?)として、反戦運動やマイナーな社会問題などを追っている人がほとんどでした。もしくは、大学で映像を学んでいる最中の学生、それとも、どこかしらから制作費の助成を受けて作品を作っているという人(←ただし、助成を受けるのだって、かなりの競争率です)。なので、インディペンデントで映像を作り、それを上映したり、販売することで収支を保っているという人は、ついに見かけたことがありませんでしたし、そういう上映会の情報も、ネットやMLなどでも、あまり聞いたことはありませんでした。(あったとしても、大抵無料で、寄付歓迎というシステムのものが多く、内容も、運動体内部の人向けに作られたような作品が多かったです)

そういう意味では、日本の方が、自主上映会が盛んですし、自主上映会を定期的に主催する団体も数多くあるし、上映することで制作費を少しでも回収するという道が、イギリスよりも整っているのではないか、と思います。(・・・とはいえ、ブライアンを撮影しているときは、私の所属(?関わり?)と関心は、「自主映像作家」よりも、「社会運動」の方が圧倒的でしたので、私自身、イギリスのインディペンデント・ドキュメンタリーの作り手たちのネットワークについて、そもそもそういうのがあるのか、どんな風に活動しているのか、どんな工夫をしながら制作&上映しているのか、情報を積極的に集めていなかったので、知らないだけかもしれませんが。

インディペンデントで、社会的な問題をテーマにした映画で、近年商業的にも健闘した数少ないイギリスのドキュメンタリー映画としては、「Taking Liberties」ぐらいしか思いつきません。

そんな中、この「You've been trumped」は、イギリス各地の大学や公共施設などで”有料”の自主上映会を多数開催、北米&欧州&アジアの数十の映画祭で上映され、10個の賞を受賞し、後にBBCでも放送され、BBC iPlayer(NHKオンデマンドのようなもので、過去の放送のアーカイブですが、NHKとは異なり、イギリスに住む人のみ無料で観ることができます)で、なんと100万回以上再生されたという、イギリスのインディペンデント・ドキュメンタリー界にとって、まさに”異例尽くし”の作品なわけです。(・・・とはいえ、初めに北米の有名な映画祭でとても評価されて、それでイギリスに”逆輸入”された節もあるそうですが・・・!)

そんなわけで、ずっとこの作品を観たいと切望していたのですが、最近DVDがリリースされたので、ポールに送ってもらい、やっと観ることができました。観終えて、映画の内容よりも、まずこういう作品が作られ、観てもらうことで制作費が回収でき、テレビやネットでも広く伝わる手段を持ててよかった、という気持ちになりました。だって、こういう作品にお金が集まらなくて、観る人も少ない、テレビは報じないということが、”当たり前”なのですから。(←だから作り手は、採算度外視で、社会的使命感だけでやる、みたいな)。なので、イギリスのインディペンデントのドキュメンタリー作家にとって、この作品は今後の展望に期待が持てる道筋を作った、といえるのではないかと思います。

・・・最終的には大ヒットしたこの映画ですが、制作中は、監督も無名で、話題はスコットランド政府にとって最大のタブー(←スコットランド政府は、このゴルフコース開発の見返りに多額の税収を得るのだから)。監督は、あらゆる助成金を断られ、資金集めに苦労したそうです。カナダ・トロントの有名なドキュメンタリー映画祭Hot Docsに出品するため、どうしてもお金が必要で、最終的に頼ったのはクラウド・ファンディング。ネット上で一般の人に寄付を呼びかけたところ、8週間で20,000USドルものお金を集めることが出来、それによって映画祭への出品→その後の展開に繋がったそうです。

ロンドンのBFI映画祭での上映後Q&Aで、監督が製作中の苦労やクラウド・ファンディングについて語る動画が、ネット上で観られます。こちらから。

それにしても、開発のために、住民を立ち退かせたり、フリーランスのインタビューを拒否したり、招待されたメディアにだけ現場を見せるキャンペーンをする・・・なんていうやり方は、世界中どこでも同じなんだなぁ、とつくづく思いました。

映画の中で、工事現場を遠くから撮影するだけで監督が逮捕され、カメラを奪われ、4時間勾留されるというシーンがあり、激高してもおかしくないのに、監督は冷静で、法的な知識に基づいて警察官に反論して、その一部始終をカメラに収めているのに、すごいな!と感動。

監督の逮捕の理由について、「平穏を乱したから」と警察は説明したそうですが、不都合なトピックの撮影&取材をさせない、逮捕して取材活動を萎縮させるようなやり方もまた、スラップ訴訟同じく、どこでも蔓延しているのだな・・・と思いました

余談ですが、スコットランドの英語、特にアバディーンの地元のおじさんたちの言葉が、「宇宙語?!」というぐらい、分からなかったです。英語だけど、単語が聞き取れなくて・・・みたいなレベルじゃなく、私にとっては英語を話しているとさえ分からない状態・・・! でも、音声が聞き取りにくいシーンではないのに所々英語字幕が入っていたので(←特に一人のおじさんについて重点的に)、英語圏の人にもやはり分かりにくいんだろうか?と思って、ちょっとホッとしました。日本では、方言に対して字幕をつけるのか否かという葛藤や、方針についての個々人の哲学(信条?)があると思いますが、イギリスではどうなんでしょうね?? 気になるところです。

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