[jp] 高幡台団地73号棟裁判判決 判決文と集会ビデオ
3月28日に、高幡台団地73号棟裁判の判決が出て、UR側の全面勝利だったということはお伝えしましたが、今日はその判決の内容について、詳しく書きたいと思います。
「建物の耐震性不足が正当事由になるのか」が争われた裁判だったのですが、結局それに基づく判断がなされたわけではなく、UR側の言い分を認めた根拠は:
(※要約する過程でニュアンスが異なってしまう場合もありますので、正確な判決内容については、判決文をご確認ください。後日掲載いたします)
- 建物が完成した当時は、そのときの耐震基準を満たしていた(なのでURは瑕疵のある建物を提供したのではないから、耐震補強をする=大家としての”修繕義務”ではない。)
- 耐震補強をするか否かは、大家の判断に任される。経済的な負担が過大と判断すれば、取り壊しを検討するのはやむをえない。
- 取り壊しに際し、URは住民に何度も丁寧に説明をし、斡旋先を用意し、移転のための費用も一部負担するなど、十分な対応をしてきたので、一方的に突然に追い出そうとしたわけではない。
- 長年住み続けたところに住み続けたい、地域のコミュニティを破壊しないで欲しいという住民側の主張は、住環境・街づくり政策論的な範疇に含まれるものであり、単なる住民の意見に過ぎない。
・・・というのが、裁判所がUR側の言い分を認めた大まかな理由です。
これまでこのブログでも何度もお伝えしてきましたが、住民側の勝利を住民&弁護団は信じて疑わなかったのではなく、「どんなに住民側の意見が正しかったとしても、国とたたかって勝てるとは限らない」というのは、常々言われてきたことでした。なので「負け」だって想定の範囲内だったわけですが、「想定外」だったのは「判決の仮執行」が認められているということでした。
地裁で負ければ、負けた側は2週間以内に控訴すれば上級審(高裁)に進むことができるというのはご存知の通りです。なので、住民側も判決に不服なら控訴して高裁に進み、家賃を法務局に供託することで、今までと変わらず73号棟に住み続けながら裁判を続行できる、と考えていました。
ところが、この「判決の仮執行」が認められているということは、控訴して上級審で裁判をたたかっている間でも、UR側は地裁の判決に基づいて、立ち退きを実行することが出来るということなのです!!!! ある日突然○○日までに立ち退けと言う張り紙がドアに貼られ、それに応じなければ強制立ち退き・・・というシナリオだってありえるわけです・・・・!!!”仮”執行なので、例えば判決が高裁で覆されれば73号棟に戻ってきても良いという理屈ですが、その間に住まいは奪われ、73号棟が取り壊されてしまったりしたら、「戻っても良い」などという判決をもらえたところで、それは絵に描いた餅です。
原告(訴えを起こす側)は、訴状で仮執行を求めるのが普通だそうですが、現住する建物に対し仮執行が認められるケースと言うのは(悪質なケースを除き)非常に稀で、弁護団でも「さすがにそこまでは認めないだろう」と事前に話していたそうです。なので、この仮執行を認めると言う裁判所の判断に、弁護団は「住民のごね得を許さない、控訴させないという裁判所の強い意思が感じられる」と話していました。
仮執行が認められている状態では、おちおち裁判をたたかうことなどできません(いつ張り紙が来るか分からないのですから)。仮執行をさせないようにするには(「仮執行の解放」と裁判では呼ぶそうです)、「解放金」というのを裁判所に納めなければならないそうです。それにより、裁判をたたかっている間は、仮執行がなされないという仕組みです。解放金は、そのために裁判所に預けておくお金ですから、その後裁判が終われば解放金は手元に戻ります。(保釈金に似ています)
問題はその解放金の金額。何しろ前例がほとんど無い事例ですので、解放金が10万なのか、100万なのか、はたまた1000万円なのか、全く見当がつきません。金額については、控訴をすると決まった後に、裁判所が決めるのだそうです。でも、少なくとも一人100万円ぐらいは解放金として用意出来ないと、次のステージに進むのは難しいのではないか?とのことでした。
ちなみに今回の判決では、裁判所はURが主張する「損害金」も認めました。UR曰く、契約終了後は住民たちは不法にその住居を占拠しているのだから、契約終了時~明け渡しの日まで、賃料の1.5倍を支払えと請求していました。住民は2年以上に渡り賃料を法務局に供託してきましたが、住民は「不法占拠ではない」という主張ですから、これまでどおりの賃料を収めていました。しかし今回の判決で、賃料の1.5倍でなければ供託は無効と判断されたため、過去2年以上の供託金をさかのぼって0.5相当部分を上乗せした金額を納めなければならず、また、今後裁判を継続する場合は損害金を含む、賃料の1.5倍を供託していくことになります。家賃は人によって多少異なりますが、上乗せする金額は1ヶ月あたり約2万5千円ぐらいが平均です。となると2年分超で約80万円、そしてそれは今後も続く。。。
裁判のことを抜きにしても、あの73号棟で家賃8万円は高すぎです!!!!! それでも住み続けたいならどうぞと言わんばかりの判決です。。。
以上に書きましたとおり、控訴するには解放金と損害金合わせて180万円ぐらいを用意していないと難しいということになります。これだけのお金、さっと出せる人がどれだけいるだろうか?と思いますし、用意があったとしてもそれはきっと住民の皆さんが「老後のため」、「万が一の備えとして」、「病気の治療のため」、「孫のため」と取っておいたお金でしょう。さぞ悔しいだろうなぁ・・・と想像します。また、家庭内で裁判に対して温度差のある人の場合は、これだけのお金を用意して裁判を続行することについて、家族の理解が得られない人も出てくるかもしれません。
裁判の過程をそばで見てきて、「裁判制度」というのは国民誰もが利用することが出来て、国に対して唯一、国民がもの言うことが出来る手段だとも思っていたのですが、(特に民事では)「お金がないと裁判さえ出来ない」ということを、思い知らされたような気分になりました。
また、今回仮執行を認める判決が出たことは、市民運動にも大きな影響を与えると思います。基地反対運動や原発反対運動などで、市民運動に対しスラップ訴訟のようなやり方が頻発していますが、今回さらに仮執行まで認めてしまうことで、「裁判を起こそうが起こすまいが、国は国民に邪魔されることなく政策を進めることが出来る」というやり方が許されてしまったように感じるのです。裁判を起こしたって意味が無い、止められない、声を上げる市民は訴えられる、それでも文句を言いたいなら自腹でたたかい続けなさい・・・そういわんばかりの現在の情勢です。今回の判決を知った方から「裁判所はどちらの方向を向いているのでしょうか?」というメールをいただきましたが、まさにその通りだと思いました。
判決後に開かれた報告集会の様子を撮影しました。弁護団が判決内容を詳しく分かりやすく解説しています。こちらもご覧ください。
追加:
今日、UR分譲団地の建替え時に裁判を経験された方に、その時のことをお聞きしたところ、裁判中に強制執行が行われ、住まいを追い出されてしまったそうです。同様の事例は、他のUR分譲団地の建替えでも行われたとのこと。(ただし、分譲の建て替えなので、大家はURから民間ディベロッパーへと変わり、法廷でたたかう相手は民間ディベロッパーでした)
建て替えと取り壊し、分譲と賃貸という前提の違いはありますが、裁判中にも関わらず住まいを奪われるという事例は、もしかして珍しくないケースかもしれません。もし高幡台団地73号棟同様、賃貸の取り壊し案件で、判決の仮執行が認められたケースなどをご存知の方がいらっしゃいましたら、是非お知らせください。よろしくお願いします。
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現在、ur都市機構より、立ち退き請求事件を提訴され、第一回口頭弁論を20180925に終えて、次回期日20181115弁論準備を控えています。
事件番号 東京地裁H30(ワ)第21922号です。
情報交換できれば、幸いです。
とりあえず、初歩的ですが、高幡台73号棟事件の事件番号を教えて頂ければ幸いです。
投稿: 三島豊数 | 2018年10月 1日 (月) 19時05分